ジーヴズの事件簿 P・G・ウッドハウス選集1



 最近読んだ「北村薫のミステリー館」に、北村薫宮部みゆきの対談が収録されていた。
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北村薫のミステリー館
北村 薫
新潮社 2005-09
評価

街の灯 紙魚家崩壊 九つの謎 ニッポン硬貨の謎 法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー ミステリ十二か月

by G-Tools , 2006/10/13



 主に、このアンソロジーに収められた作品に触れる内容だったのだが、会話の中で宮部氏がふと本書の名を挙げた。
「『ジーヴズ』を読んで、自分の中に従僕願望があるのに気付いた。」「ダメなご主人様に一所懸命仕えて何でもやってあげたい―という家令・執事願望。」
 うーむ、私にも同じような傾向がある。宮部氏はこの後「夫婦では意味がない。あくまで職業としての願望(メイドさんもいいな♪)」と続けているが、私は夫婦でもいい。ウォーレン・マーフィ描くところの「トレース」シリーズでのチコとトレースのような関係もいい。相手が「ダメ人間」である必要はないが、自分が「役に立つヤツだ」と思われたいのだ。つくづく褒められたがりの犬型性格である。
 そんな訳で、「完璧な従僕」ジーヴズとお知り合いになるべく本書を手に取った。以前の翻訳では「ジーヴス」となっていたものが選集として新たに翻訳されたもので、まっさらのぴかぴかである。緑色の装丁も気に入ったが、才気煥発で生意気な(センスのいい)ジーヴズ氏も好きになった。うーん、私にもこういう「お供」が欲しい……と、いつの間にか読み初めとは逆のポジションを望んでいる自分に気付いたりもするのであった。


 物語の舞台は、19世紀のイギリス。主人公兼語り手のバーティ・ウースターは、食うに困らぬ生まれと財産で我が世の春を謳歌する「バカぼっちゃん」である。幼時より頭の上がらぬアガサ叔母には「ふにゃふにゃの軟体動物」と罵られるのが常で、派手で悪趣味な服と賭け事全般に目がないという人物である。女性にも弱いのだが、そちらの面では親友のビンゴ(慢性的一目惚れ症候群)が比較にならぬバカをやらかしてくれるので余り目立つことはない。
 そんなバーティにはもったいないほどの従僕がいる。その名はジーヴズ。前出のアガサ叔母に言わせれば、「ジーヴズはバーティの飼い主」である。悪趣味な色の靴下やカマーベルト、目がチラチラするような柄物のシャツや上着を遠ざける努力をするだけでなく、バカぼっちゃんの起こすであろう&既に起こしたトラブルを解決もしてくれる。ただし、ジーヴズの気が向いた時だけ……。
 ご主人盲愛のドレイではない、きちんとワガママでそれなり利己的なジーヴズが、喧騒のロンドンやのどかな英国田園地帯、さらにアメリカはニューヨークでも才気を働かせて問題に対応する。その手段は時にヒキョウですらあるが、いずれもにやにやと笑わずにはいられない。
 英国製コメディがお好きな向きには、訴える力が強いと思う。是非、お試しあれ。