うらねこの一年

kirindiary2005-12-29



 7月、うららは3歳になった。しばしば「猫の○歳は人間に換算すると○○歳」とか聞くが、はて3歳はどの程度になるのだろう?
 探してみた所、こんなページがあった。
猫の年齢の換算法〜斉藤式


 これによると、2歳から5歳の猫の年齢を人間に置き換える式は下記の通りである。
ネコの年齢 × 6 +15 → 3×6+15=33
 うおう、うららさんたらもう33歳なんですか!もう大人のオンナなのに、嫌いなゴハンにハンストして、ネズミのおもちゃにヒートアップして、遊んでほしい時は後ろから足にパンチしてきて、寂しくなると遠くからわおーんて鳴くんですか。気分が乗ると未だにカーテン登りして、足の裏の毛を活かしてドリフト走行して、キャットタワーにテッポウするんですか。大人のオンナなんだから、お姉さん座りして上品に毛繕いして、あとは置物みたいに鎮座してなくっていいんですか?
 こちらのサイトによれば、「生後1年で約15歳、2年で約24歳、その後は猫の1年は人間の約4年分に換算されます」とのことだが、この計算でも28歳である。
 この調査結果で私が得たものは、「猫の年齢を人間のそれに換算することに意味はない」ということだった。三毛猫うらら3歳。それだけのことだ。なんにせよ世界一。


 9月、うららは血便をした。便を採取した上でかかりつけの動物病院に赴くと、医師の診断は、1歳までに撲滅したはずのジアルジアとキャンピロバクター再発。投薬を続けて様子を見ることとなった。翌月に予定していたワクチン接種も延期である。
 また、その時に「フードは何をやってるの?」と尋ねられた。
 この病院では、猫にドライフードを「与えない」ことを推奨している。ドライフードに含まれる添加物や劣化した油脂が猫の健康に悪影響を与えると判断してこのことだ。胃腸が弱い個体には、消化しにくいこともよろしくない(逆に言えば、「腹持ちがいい」という長所としても挙げられる)。
 代わりに薦めるのが手作りフード(肉や魚)や、国産のウェットフード(缶詰やレトルトのもの)である。総合栄養食とか気にしなくていい。色々な食材を口にしてさえいれば、バランスは取れるものだ。人間だって、毎食完璧なバランスを考えて食事しなくても健康でいられるではないか。
 そんな訳で、通院し始めた当初はその通り国産缶詰フードを与えるようにしていた。しかし、うららはそれまでドライフードしか食べたことのない猫であった。湿っぽいフレーク状のゴハンを嫌がり、ハンストした。根性のない飼主は、いつの間にかドライフードに戻してしまっていた。そのため、この質問には非常に後ろめたい気分で答えることとなった。
「今は、ドライフードを……」
「うーん、ドライはねえ、この子には向かないと思うよ」
「出しても食べないので、ついドライに戻してしまって」
「目の前に食べるものがあるのに餓死するまでガマンするってことは考えにくいから、今度はちょっとおねーさんたちがガマンしてでも切り替えた方がいいよ。この子の腸の弱さは、ドライ向きじゃないから」
 帰途、レトルトパウチの国産キャットフードを数種類買った。使いかけのドライフードは廃棄した。久し振りで物珍しかったのか、病院行きのため断食していたせいか、うららは皿に出したフード(いなばCIAO)をぺろりと食べた。以降、彼女はドライフードを食べていない。何が気に入らぬのか時々ハンストするが、ドライフードはもうないので、人間も根負けしようがない。
 投薬と食事の変化に効果があったのか、便の調子は改善した。そして、フケがなくなり、毛ヅヤが良くなり、目やに・耳やにも消えた。下腹部に付いていた皮下脂肪も、触っても分からぬようになった。医師の見立て通り、うららにはウェットフードの方が向いているようだ。
 12月、延期したままだったワクチン接種をお願いすべく、再度病院を訪れた。便の再検査の結果、原虫も細菌も出なかったが、医師は「ワクチン、やめておきませんか」と言う。
「ワクチンはメリットもあるけど、リスクもある。この子の病歴とか、一頭飼いで外には出してないっていう状況とか、全部合わせたら接種しない方がいいと思う。どうする?」
 私と家人は顔を見合わせて考えた。うららは、「しなくていい、しなくていい」という顔をしていた(よーな気がする)。結局プロのアドバイスを聞き、今年はワクチンをやめておくことにした。うららは安心した顔をしていた(よーな気がする)。(ちなみに、その日の料金は¥0だった。つくづく良心的な病院である。)


 最近、うららは少し変わった。枕元で添い寝してくれるようになるなど、人間の見える範囲にいる時間が増えた。少し甘えん坊になったような気がする。家人が言うには、時々彼の寝ている布団の中に入り、頭だけ出して眠っているのだそうだ。信じないぞ、そんなうらやましいこと。だが、私自身も新たな変化を目撃することとなった。
 先日、うららはリビングのソファで眠っていた。私はNHKの動物番組を見ながら水仕事をしていた。「知床のハクトウワシ」の映像が流れるのを眺めていると、視界の端で何かが動く。見ると、いつの間にか目覚めたうららが、TV画面を見据えて尻尾をパタパタしている。あ、あれは獲物(動くもの・おもちゃ)を狙うポーズ!
 瞬間、うららはTV画面に飛びつき、はばたくハクトウワシパンチ!パンチ!パンチ!フレームアウトした鳥を追ってTVの上に飛び乗り、上から画面をパンチ!パンチ!パンチ!ああ、液晶TVじゃなくて良かった……。
 番組はじきに終了したが、うららは未練がましく続いて始まったニュースのテロップなどを叩いていた。しかし、ヒューザーの社長が映ったら、ぷいとどこかへ去って行った。お好みの獲物ではないらしい。
 今までTVの映像に興味を持ったことなどなかったのに、突然のこの「進化」。やはり、世界一の猫とはスゴイもんである。その内リモコン操作し始めるかもしれん。


 今年は色々あった。難儀だったこと、しんどかったことでは、うららの存在に大いに慰められた。嬉しかったこと、楽しかったことは、うららがいてくれたからその喜びが倍になった。私たちは未熟な家族ではあるけれど、うららがいることである種の結束を得ることができた。それは、来年人間が一人増えても変わらないと思う。
 世界一の三毛猫に、深く感謝する年の暮れ。