謎のシンタさん

kirindiary2005-12-30



 昨日、久し振りに会う友人二人と忘年会を楽しんだ。6年程前に英会話スクールで出会ったのが縁の始まりだが、クラスメートだったのもさほど長くはないし、ここ数年は年に1、2度会うのがやっとなのに、何故か集まると話が終わらぬほど盛り上がってしまう。
 一人は去年までアメリカに留学しており、一人はスペイン留学を終えて今はオランダで仕事をしている。二人の聞かせてくれる異国の話は実に興味深く、訪れたこともない国や町の様子を生き生きと思い浮かべることができる。4年ほど外国旅行をしていない私だが、聞いていると「行ったつもり」になれてお得でもある。


 さて、今回は「オランダ話」が中々興味深かった。
 「オランダ」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか?私には、表層的かつ断片的イメージしか出て来ない。チューリップ、風車、運河、大麻安楽死フェルメール、「未亡人の一年」。「フランダースの犬」はイギリス人の小説だから違うし、オランダ映画もオランダ文学も鑑賞したことないなあ。もっとアカデミックに脳細胞を絞れば、「ベネルクス三国」とか「オラニエ公ウィレム」とかいう言葉が出ては来るものの、ところでそれって何だっけ?という塩梅である。全然アカデミックじゃないな。


 しかし、住んでいる人の話を聞いていると、オランダと言うのは実にへんちくりんな国である。
 まず、食事はサンドイッチ。とにかくサンドイッチ。「たまには豪華なものでもご馳走するよ」と言われて楽しみに付いて行っても、出て来るのは豪華なサンドイッチ。そして、致命的なことにおいしくない。しかも高い。
 食事のマナーはよろしくない。合理主義がお行儀を大きく凌ぐので、立ち食い・歩き食いは推奨されはしても眉をひそめられることはない。生サーモンはおいしいのだが、その食べ方は指でつまみ、上からべろーんと垂らして「あーん」と口で受けるというものがスタンダードである。
 さらに、これまた合理主義に基づく大雑把さが全てを支配している。必要ならば朝令暮改は大歓迎なので、言行不一致もさほど責められない。実地調査によれば、男性の9割がトイレの後に手を洗わない。理由?「自分の体の一部を触っただけなのに、何故手洗いが必要なんだ?」
 他にも、街灯少ない暗い夜道だの、暴走する無灯火自転車だの、「犬フン?雨で流れるよ」とか、オランダ人は世界一背が高い。それは何故か?乳製品をたくさん食べるから。ふーん、健康的だね。いやいや、その牛に成長ホルモンをバンバン投与してるから……などのダイナミックなオランダエピソードの数々を拝聴した。合う人はとことん気分良く過ごせるだろうが、合わない人間には全くもって耐えられそうもない。いーかげんを自認する私ですら、オランダには潔く負ける。自分が繊細な人間になったような気がしてくる。


 そんな話の中で一番面白かったのが、「シンタクラウス」に関するエピソードである。心太食らうす?なんじゃそりゃ?


 友人が語るには、シンタクラウスはサンタクロースとは別の、オランダ独特の聖人なのだそうな。しかし、伝統というほどのルーツを持つ存在ではなく、20-30年前に「商売道具」として脚光を浴びて以来の存在らしい。あくまでもその友人が言うには、オランダ人は基本的にケチであり、ケチに財布の紐を緩めさせるためにクリスマスセールの回数を倍にしたというのが、シンタさんの発祥理由なのである。じゃあサンタはいないのか?クリスマスは祝わないのか?というとさにあらず。そちらも存在はする。だが、シンタさんの方が規模は大きい。
 シンタさんはサンタさんじゃないので、フィンランドにはいない。12月になると、トルコから馬車に乗ってやって来る。オランダに立ち寄り、この時(12月上旬)オランダでシンタさん行事に参加するが、最終目的地はスペインである。良い子にはプレゼントをくれるが、悪い子は馬車に乗せてスペインに連れて行ってしまう。冬の(冬以外も?)スペインはオランダよりずっと快適そうだから、どうせなら悪行を働いて拉致されたいところだが、馬車で陸路を行くからしんどいとのこと。


 しかし、調べてみるとシンタさんというのはつくづく不思議なお方である。
 まず、一般に「シンタクラウス」と言えば、単純に「サンタクロース」の語源(オランダ語→英語)なのである。オランダからの清教徒の移民が「12月(6日)に聖ニコラスにちなんでプレゼントをする」という習慣をアメリカに持ち込んだ際に、聖ニコラスの逸話とクリスマスが合併された模様。つまり、オランダのシンタさんは本来の「シンタさんの日」に忠実かつ古典的な存在ということになる。
 ここから先は私の想像に過ぎないが、伝統的に細々と祝われてきた「シンタさんの日」は、一時アメリカから逆輸入されたきらびやかなクリスマスに取って代わられたのではないだろうか?だが、シンタさんという最早オランダにしか残らぬ習慣に着目した目端の利く誰かが画策し、シンタさんが商業主義との結婚を果たしたのが「20-30年前」のこと(と想像)。以降、オランダでは12月に2人のプレゼント聖人が現れることになったのではないだろうか?
 さらに不思議なのが、「トルコ発オランダ経由スペイン行き」というルートである。
 聖ニコラスは現在のトルコ在住の司教だったとのことだから、サンタさんにもシンタさんにもトルコとオランダが縁のある地だということは分かる。サンタさん物語に「現住所トルコ」ってのはないけど。
 だが、シンタさんとなると、ここでスペインが出て来るのだ。何故スペイン?しかも、子供たちに「悪いことしてるとスペインに連れてかれちゃうよー」と言うための場所として。聞くところによれば、スペインというのは地上の楽園のような所ではないか。ゴハンはおいしく、風光明媚で、しかも午後は昼寝ができるのだ。うーん、ステキ。拉致されたい。旅費交通費はシンタさん持ちで。
 一説によると、オランダはスペイン王家に支配・弾圧されてきた長い歴史から、「スペインまじむかつく!」という伝統?があるのだという。なるほど、それならば納得。でも、現在はさして関係が悪いわけでもあるまいに、未だに「恐怖の地スペイン」としているのは国際問題とかにならないのだろうか?


 日本語表記は「シンタクラウス」「シンタクラース」「シンタクロウス」と多様だが、元の綴りは「Sinterklaas」。シンタさんについてより深い知識を得たい方は、是非オランダ語サイトをご調査いただきたい。そして、分かったことを私に教えてください。何だかオランダに興味津々です。
 現地にお住みの方の詳細な「シンタ・レポート」も勝手にご紹介させていただく。実に分かりやすいので、正直言って私の想像妄想入り混じった文章を読むよりずっと勉強になる。
http://nedwlt.exblog.jp/3188184/


 ところで、様々な「オランダ情報」に関しては、友人が私を騙している可能性もあるということを付記することで、オランダ関係各位の方にはお許しをいただきたいと思う。